十体法7 傀儡体 2 |
先史時代I以来、各時代、各文化圏の人々は「ひとがた」をしたものに無数のクオリアを籠めてきた。 旧石器時代以来人々が祀ってきたプリミティブなシャグジ石、縄文の土偶、秦の兵馬俑、古墳の埴輪、 古代・中世のひとがた、江戸の人形浄瑠璃、ベルメールの壊れた人形像、 各時代の人々は、「ひとがた」にこめた無数の微細なクオリアで、異界と交流し共振してきた。 その異界とのクオリア共振を体現するのが十体のひとつ傀儡(くぐつ)体だ。 傀儡とはもともと、操り人形を指す。 だが、ここでは他の人によって操られるばかりではなく、 異界の見えない力によって操られる死せる「ひとがた」への変成を意味する。 単なるパペットやマリオネットではなく、 異界のクオリアに動かされ、それを現実界にもたらす媒体となる。 それは、現代の見えない共同幻想によって操作されている日常の人間の姿を 映す鏡ともなる。 自分の中で何ものかわけの分からない力によって動かされている体感を探れ。 それが傀儡体への坑口となるだろう。 自分の舞踏の十体を創造していく作業とは、 日常の人間を脱ぎ、あらゆるクオリアをまとって異形のものになりこむことを通じ 無限のクオリアと共振している生命の実体に迫る営みである。 傀儡体の核心とは何か。 1.生命の呼吸 2.背後世界 3.異界との媒体 つづめて言えばたったこれだけである。 傀儡とはもともと死せる物体である。 せわしない脳の言語思考や肺呼吸を止め、長く静かな生命の呼吸で死せる物体になりこむ。 傀儡は死せる物体だが、そこに無数のクオリアが籠められている。 傀儡がただの物体ではないのは、人がそこに籠めた思い、 すなわち死せる背後世界とのクオリア共振を体現しているからである。 傀儡を運ぶとき、それは背後の異界のクオリアをこの世に伝える媒体となる。 傀儡体へ変成するには、まず、 長く静かな生命の呼吸で静寂体になることからはじめる。 内と外に等価に半分ずつ開く。 内にも外にも囚われない透明なからだ(心身状態)になる。 (長く経験をつんできた産婆コースの人は、 さらに主なチャンネルのそれぞれで透明になるよう制御する。 これが透明体につながる坑道である) そして、背後世界の微細なクオリアに耳を澄ませながら、灰柱を運ぶ。 背後世界とは、単なる物理的な背後ではない。 他界、過去の世界、人間以前だった世界、海洋生物や単細胞だったころの世界、生命誕生時の原生世界、 地底の世界、死の世界、地殻変動の世界、マグマ、天上の世界、無数の元型の棲む世界、真空の宇宙空間、 ほかの星、銀河、ブラックホール、宇宙創成時の時空、ストリング共振の世界など、ありとあらゆる異次元、異界を指す。 これら異界との間で微細に震えている命のゆらぎに聴きこむ。 そして、異界からくるクオリアをまとう。 からだの各部、秘膜や秘腔、秘液の各層に、それらのクオリアが巣喰う。 からだ中が外に出たがっているサブボディの胎児の巣となる。 それら外に出たがっているサブボディたちの動きを最小限のサイズに留め、 無数の異次元と重層的に共振する巣窟体に変成する。 記憶や夢、からだの闇の原生体や異貌体の息吹、背後世界のクオリア、死者の呟きなどが 無限に重層化した異界とのクオリア共振を運ぶ巣窟のからだに変成する。 その巣窟と背後の世界を運びながら、命に聴く。 巣喰っているサブボディたちにたずねる。 誰だい、今日傀儡体となって出たがっているのは? そのサブボディがからだの形を決める。 形が決まればそこで長い生命の呼吸を感じ、傀儡になりこむ。 動かぬその形を運ぶ。 沈み足、渡り足、にじり足 傀儡体には静止体を運ぶ固有の歩行を学ぶ必要がある。 決して足を上に上げない。 むしろ脚の長さが伸びて地中に伸びていくように運ぶ。 下方に押す摺り足、<沈み足>である。 足裏の感覚を研ぎ澄ませて、左右にからだがぶれないように運ぶ。 左右へのブレをなくすには、第一趾と、母趾球、そして踵を結ぶ 一直線上で体重を移動する綱渡りの<渡り足>を使う。 その他、足指だけでにじり進む<にじり足>、 踵と母趾球を交互にずらす<オリエンタルウオーク>など場合に応じて使い分ける。 いずれも、自分で歩くのではなく、重心がなにものかによって一定方向に 一定速度で引っ張られていくクオリアに従うことが要諦だ。 顔はその傀儡固有の面となり、面の背後世界のクオリアを満たす。 観客の住む現実世界に向かって、異界をまとい、送り届ける媒体となる。 まっすぐ空間の中心を通って観客に近づいていく中心動線、 わずかにずれる斜め動線などを工夫する。 やがて、動かぬ傀儡になにごとかが起こりはじめる。 崩壊やしなびや他の体への変成へと移る。 そこから先は各人の創造となる。 毎日無限の序破急を創造し続ける。 |
●関連技法 生命の呼吸 静寂体 巣窟体 傀儡体 1 |
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