虫の歩行2 虫の歩行から君自身の舞踏へ

(虫の歩行1より続く)


虫の歩行のテキスト一行ごとに、
どんな動きで反応するのがもっとも適切なのか、
試行錯誤をしつつ、時間をかけて最適解を求めていくと、
この歩行の全容が少しずつ明らかになってくる。

土方が導こうとした舞踏の世界に降りていくためには、
土方がからだの闇からつかみ出した「沈理の出会い」を理解しなければならない。
そこは三次元的な日常界とはかけ離れた生命の棲む多次元共振的な世界である。

人間のからだがとうに忘れ去った秘密関節や、秘密筋肉(深層筋群)をどう呼び覚まし、
どの秘密体腔で反応し、どの層の秘密皮膜が虫に侵されていくのか、
微分法のように無限接近していくと、やがてはそれを実現することができるようになる。
これは土方が残したかけがえのない文化遺産なのだ。
そればかりではない。
ここには、土方の遺志をついで君自身の舞踏を創造するための
土方からの鼓舞激励ヒントの数々が秘められている。

「虫の歩行」

1.右手の甲に一匹の虫
2.左首筋からうしろへ降りる二匹目の虫
3.右の内ももから上がってくる三匹目の虫
4.左肩から胸を降りる四匹目の虫
5.五匹目 自分で知覚
6.あっちも こっちもかゆい その場にいられない かゆさに押し出される
7.あごの下 耳のうしろ ひじのうしろ 膝のうしろ ベルトのところ に
五百匹の虫
8.目のまわり 口のまわり 耳の中 指の間 すべての粘膜に五千匹の虫
9.髪の毛に虫
10.毛穴という毛穴に虫
11.その毛穴から 内臓に虫が喰う 三万匹
12.さらに侵食し 毛穴を通って外に出る虫 身体のまわり 空間を虫が喰う
13.さらに空間の虫を喰う虫
14.その状態に虫が喰う
15.(樹木に五億匹の虫――中身がなくなる)
16.ご臨終です (意志即虫/物質感)」


[序] まずは秘節・秘筋からはじまる

1.右手の甲に一匹の虫

右手の甲のあるかなきかのかゆみを感知する。
日常意識はそれを無視することができる。
舞踏手はそのかすかな兆しを透明に見つつ動きとしては秘めている。
それが<序の中の序>における秘兆である。
<ため>とも呼ばれてきた。
だが、そのかすかなかゆみが抑えきれない閾値を越えたとき、
手の中の秘密関節が不随意的に反応する。
その瞬間にいたる最適の間で、動きが発出する。
それが<序の中の破>の瞬間だ。
右手の薬指の秘密関節からかすかに動き出すのが最もよい。
日常体の手の動きにおいてもっとも遠く忘れ去られている部位だからだ。
次いで人差し指の秘密関節が動く。
この後、2に移っても虫は腕を這い上がっていく。
そこから前腕の親指の付け根から外肘に向かって斜めに走る深層筋が動き
虫が這い上がる道筋を示す。
何が起こっているかが透明に見えるからだになるには
限りなく精妙な秘密筋肉の研究が必要である。
そして、ここにこめられた土方の第1メッセージは
秘節・秘筋から動け、である。
それを秘腔・秘膜に移っても忘れないこと。

2.左首筋からうしろへ降りる二匹目の虫

首筋を這う虫の行跡を、
頚骨関節や頭部と肩を結ぶ多くの深層筋群を順次動かして示す。
まだごくかすかな動きにとどめる。

3.右の内ももから上がってくる三匹目の虫

虫は背側の皮膚からより敏感な腹側の皮膚に移る。
膝の内側から腿の内側を通って体底に至る
深層筋群を順次揺らがせて這い上がる虫の行跡に反応する。
薄筋、膜様筋、大内転筋、短内転筋、恥骨筋などを順次緊張していくことで
腿の内側を這い上がる虫の行跡を示す。
ここで土方は舞踏手に、
灰柱の歩行でかかとを上げずに歩くために使わねばならない
腿の内側の深層筋群を鍛えよという必須のメッセージを伝えている。

4.左肩から胸を降りる四匹目の虫

頭部と鎖骨を結ぶ僧坊筋がピクリと反応する。
そこから、胸鎖乳突筋、大胸筋の上部から下部にかけて
順次緊張・緩和させて虫が這い降りる道筋をたどる。

5.五匹目 自分で知覚

自分のからだの中で、ここにない奇妙に動く部位を探る。
君だけの花を発明せよ。
これは土方が舞踏主に贈る固有の創造への贈り物だ。
からだの闇を探りぬき、
ここで一つ目の君固有の小さな花を咲かせよ。

6.あっちも こっちもかゆい その場にいられない かゆさに押し出される

1から5にかけて、虫は増え続ける。
それをからだが耐え切れない限界値まで増幅する。
ここまでが、体表を這う虫が物理的に増えていく序の部分だ。
次項からは、物理的な虫が体表を這うにとどまらず、
体内にまで侵入していくことによってからだそのものの変成の段階に入る。


[破] からだがまるごと変成する

7.あごの下 耳のうしろ ひじのうしろ 膝のうしろ ベルトのところ に
五百匹の虫


あごの下


あごの下の虫を示すには、舌の付け根を動かす。
言いたいことがあるのに言えないときの詰まった舌の動きだ。
それが喉に現れる。

耳のうしろ

耳を動かせる人は少ない。
だが、無理にでも耳を動かそうとすることで
人間の普段の表情にはない顔の表情筋の微細なゆがみが出てくる。
無意識の顔になる、その秘訣をつかむ。

ひじのうしろ

肩甲骨から前腕をつなぐ深層の秘密筋群が痙攣する。
肘のうしろを震えさせるにはそれしかない。

膝のうしろ

脚の表層筋の下部を斜めに走る深層筋群がランダムに収縮することで
膝をガクガクにゆるめる
これもまた、灰柱の歩行の必須の筋群である。

ベルトのところ に 五百匹の虫

腹まわりに虫が増える。
ここはやがて<破の急>となる内臓の舞踏に移る伏線だ。
もぞもぞと腹がうごめき始める。

8.目のまわり 口のまわり 耳の中 指の間 すべての粘膜に五千匹の虫

目のまわり

の周りの筋群が微細にゆらぎしょぼしょぼの目になる。
目が腐る。
目腐れもまた、土方舞踏の必須の技法である。
見えないものが見える目になるには目が腐らなければならない。

口のまわり

もうものを言う人間の口ではない。
微妙にわなわなと震える口に変成する。

耳の中

耳の穴に虫がいり込みうごめきまわる。
音を聞く耳が死に、
虫に侵されるに任せる。

指の間

指の間から秘密関節にまで虫が侵入する。
手ももう人の手の役にはたたなくなる。

すべての粘膜に五千匹の虫

とうとう体内の秘密皮膜への入り口である
粘膜が侵され始める。
表皮細胞は死せる細胞だが、粘膜は生きた細胞からなる。
口腔、鼻腔、膣、肛門、すべての粘膜が
生きたまま侵され舞踏を始める。

9.髪の毛に虫

頭皮が痙攣する。
脳が混濁しはじめる。

10.毛穴という毛穴に虫

毛穴は、体液の貯蔵庫である。
皮下を流動する体液が異物に侵される。
血が青や緑色に変質する。

11.その毛穴から 内臓に虫が喰う 三万匹

どの内臓が喰われるのか。
君の内臓の舞踏を発明せよ
これも君固有の創造を鼓舞する
土方からのメッセージだ。


[
急] 世界の変成・異次元開畳

12.さらに侵食し 毛穴を通って外に出る虫 身体のまわり 空間を虫が喰う

生命は物理的な皮膚以外に、
生命史40億年の間に身につけてきた秘密の皮膜を持つ。
その秘膜第1層、第2層とじょじょに食い破られ、
ついには世界層の秘膜が属する空間が変質する。
世界変成の始まり、<急の序>である。

13.さらに空間の虫を喰う虫

空間に満ちた虫が別の虫に喰われる。
これは世界変成の比ゆである。
世界全体が異次元に変成する。
ここで虫とはあらゆるクオリアを単純化した
シンボルであったことを思い出そう。
君固有のクオリアで世界を変成し、異次元を開畳せよ。
<急の急> すべての世界を失っても異界に転生してみせよ。
重くなる。凍りつく。もろくなる。縮む。緩む。気化する。
溶ける。ざわめく。荒れる。
ありとあらゆる変成が可能だ。
第二の世界変成、<急の破>である。

14.その状態に虫が喰う

ここからさきが固有の創造の鍵である。
君はなぜ踊らねばならなかったのか。
空間を喰う虫が異なる虫に喰われ、
その状態がさらに別の虫に喰われる。
命に問え。どんな異界に転生したいかい?

15.(樹木に五億匹の虫――中身がなくなる)

カッコ内の空洞の樹木とは、土方が示してくれた異界転生の一例だ。
石でもいい。山でもいい。風でもいい。
胎児に返るでも、別の性として生きるでもいい。
死者や別の生き物にからだを預ける、
原生体、異貌体、憑依体、君自身の十体を創れ。
ありとある人間以外の生き方を発明し、転生してみせよという
土方の遺言なのだ。

16.ご臨終です (意志即虫/物質感)

自我も自己もなくした死者として突っ立つ。
カッコ内は土方の老婆心の解説だ。
空っぽの灰柱となれ。
君の意志ではなく、虫やあらゆる物質のクオリアが君を動かす。
ただ透明な多次元共振体になれ。
リゾームになれ。
たったひとつの秘密となれ。
君の舞踏がここから始まる。


関連技法

虫の歩行 1
虫の歩行 2 君自身の舞踏へ
虫の歩行 3 秘膜各層を開く
虫の歩行 4 虫の序破急
序破急
秘膜
秘膜の深さ
秘膜各層の由来
秘筋
秘節
秘腔


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