虫の歩行

やむにやまれぬ動きを掘る


命は世界のあらゆるものと共振している。
外界からの刺激がある閾値を越えると、
堪えられずに出てくるやむにやまれぬ動きがある。
それを創造に転化して踊るのが命の舞踏だ。

いかにそのやむにやまれず出てくる動きを捉えるか。
それを導こうとして初心者用のガイダンスとして単純化したのが、
土方舞踏の「虫の歩行」のメソッドだ。
ここには単純化されているが、汲めども尽きせぬ
からだの闇の深淵への階梯が一段一段に秘められている。

「虫の歩行」

1.右手の甲に一匹の虫
2.左首筋からうしろへ降りる二匹目の虫
3.右の内ももから上がってくる三匹目の虫
4.左肩から胸を降りる四匹目の虫
5.五匹目 自分で知覚
6.あっちも こっちもかゆい その場にいられない かゆさに押し出される
7.あごの下 耳のうしろ ひじのうしろ 膝のうしろ ベルトのところ に
五百匹の虫
8.目のまわり 口のまわり 耳の中 指の間 すべての粘膜に五千匹の虫
9.髪の毛に虫
10.毛穴という毛穴に虫
11.その毛穴から 内臓に虫が喰う 三万匹
12.さらに侵食し 毛穴を通って外に出る虫 身体のまわり 空間を虫が喰う
13.さらに空間の虫を喰う虫
14.その状態に虫が喰う
15.(樹木に五億匹の虫――中身がなくなる)
16.ご臨終です (意志即虫/物質感)」


(三上賀代 『器としての身体』より)


順を追ってここに秘められた変成技法の精髄を解きほぐしていこう。

[序] 押し出されて出てくる動き


1.右手の甲に一匹の虫
2.左首筋からうしろへ降りる二匹目の虫
3.右の内ももから上がってくる三匹目の虫
4.左肩から胸を降りる四匹目の虫
5.五匹目 自分で知覚
6.あっちも こっちもかゆい その場にいられない かゆさに押し出される



舞踏は自分が踊りたいから踊るのではない。
間違っても近代西洋の自己表現だの、
身体表現だのという考えを適用してはならない。
それでは自我表現の踊りであるモダンダンスになる。
そんな近代概念に囚われているうちはだめなのだ。
この根本的なところを分かっていない人が多い。
自我はもちろん自己さえも消したからだで
やむにやまれず動かされてうごめくのが命の舞踏だ。
ここではからだの表面を虫が這うかゆみによって押し出されてでてくる
動きのつかみ方が的確に示されている。
自分の意思ではなく、何ものかによって動かされる。
それをつかむのがここの核心だ。
それをつかんだ後、今度はかゆみ以外の
自分にとってやむにやまれぬクオリアをつかみ、
それを増幅していくことで自分の命ににとって必然的な舞踏に達することができる。
だが、それについて書くのは別の場所に譲ろう。


[破] からだまるごとの変成

7.あごの下 耳のうしろ ひじのうしろ 膝のうしろ ベルトのところ に
五百匹の虫
8.目のまわり 口のまわり 耳の中 指の間 すべての粘膜に五千匹の虫
9.髪の毛に虫
10.毛穴という毛穴に虫
11.その毛穴から 内臓に虫が喰う 三万匹



虫が増え体内にもいりこむ。量の変化が質の変化に転化し、
かゆみから、からだが食われて変質していく次元に移行する。
からだを侵食してくるクオリアに押し出されて出てくる動きになると、
日常体にとって無意識下に追いやられている
忘れ去られた秘関、秘筋、秘腔に封印されているクオリアがうごめきだす。
やむにやまれぬ切実な動きが出てくるのは、
自我や自己ではなく、生命が反応して蠢きだすからだ。
自己意識などによっては捉えることもコントロールすることもできない
命のクオリアが蠢きだすのを透明に見すかし
それにしたがって動けるようになるまでこの訓練を続ける。
ここには初心者向けのテキストとはいえ、
舞踏にとって最高度の課題さえ、さりげなく織り込まれている。

[急] 世界の変成・異次元開畳


12.さらに侵食し 毛穴を通って外に出る虫 身体のまわり 空間を虫が喰う
13.さらに空間の虫を喰う虫
14.その状態に虫が喰う
15.(樹木に五億匹の虫――中身がなくなる)
16.ご臨終です (意志即虫/物質感)




からだだけではなく、さらに空間そのものが喰われ変容していく。
原初生命は細胞膜の内外の秘肌を通じて空間認知・世界認識を行っていた。
その幾層もの秘肌が虫にかじられると想像して体感するといい。

人間以前の古い生命段階で秘肌に刻印され、封印されていた
古層の生命記憶がゆり動かされて出てくる。
まわりの空間がかじられ世界が変わると、
必然的に生命自身も変わらねばならない。
生命にとってやむにやまれぬ別の異次元を求める動きが押し出されて出てくる。

舞踏とはその異次元にからだごと乗り込み、
異界の生命を創造し、転生することだ。
自我や自己を明け渡し、空洞のまま突っ立つ樹木に変成するという
分かりやすいイメージでそれが示されている。
「ご臨終です」
そうだ。きみの舞踏が始まるのはこの地点からなのだ。

この項では、虫の歩行の序破急をもっとも単純な形で示した。
もっと深く踏み込めば、ここには序破急の天才であった土方の序破急メソッドの真髄が秘められている。
さらに、最終行の、(意志即虫/物質感)に込められた
土方の遺言とも言える自分固有の踊りを創造するための
応用へのヒントが埋め込まれていることも分かってくる。。

それら自分の修練に転用する応用の仕方は
別項 創体法 「虫の歩行2,3,4」で取り扱おう。


関連技法

虫の歩行 1
虫の歩行 2 君自身の舞踏へ
虫の歩行 3 秘膜各層を開く
序破急
秘膜
秘膜の深さ
秘膜各層の由来
秘筋
秘節
秘腔


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