←BACK ■ NEXT→


十体論
3 異貌体
2010年9月30日

異貌体

からだの闇には見知らぬ異貌の自己が棲んでいる。
人生のいろんな時期に出現したが、現世では棲息を許されなかった人々だ。
彼らは、影とか、not meとか、劣等人格とか、情けない名前で呼ばれている。
長い間からだの闇に潜み棲むことになった。
なかには完全に解離されて、忘れ去られている人々もいる。
それらの人々を呼び出して踊る。
細かく言えばいろいろ十体に分類できるが、サブボディとは主に彼らのことだ。
日常体の表向きの人格が支配しているかぎり、彼らは出てこれない。
意識を止め、下意識モードのからだになってはじめて彼らが出現可能になる。
これまで、共振塾の生徒たちがからだの闇から掘り出した異貌体たちを集めた。
表向きの分別臭い人格たちと違い、彼らは思い切りユニークで面白い。
彼らのすべてが生存を許されるような未来の世界を創ること。
生命の創造性の多様性のかぎりを楽しめる世界を創ること。
どんなに世界が劇的に愉快になるか。
共振塾は未来の世界を先取って味わえる場所だ。



2010年3月14日

出てこれないもの

からだの闇には、そこから出てこれないものがある。
普段は気づかれることもない。
から闇深くひっそりと沈んでいる。
それらは極端に用心深い。
なぜなら、かつてひとたびこの世に現れようとしたとき、
こっぴどく拒まれ、痛めつけられた原体験を持つからだ。
存在していることの気配さえ消して、
自我にさえ気取られぬよう潜んでいる。
周囲には無数のエッジを張り巡らせて、結界を張っている。
近づこうものなら恐ろしく不快なクオリアを立ち込め、
決して何人も近づけようとしない。
もっとも深い闇から出てこれないもののクオリアが存在する。
あるかなきかのあわいでゆらいでいる。
本当に踊るべきものはそれなのだ。
ヒマラヤ12年。
とうとうそれを言うときがきた。

浅い踊りがこの世に満ちている。
ダンスだけではない。
Butohという名の浅い踊りが満ちている。
長い間その失望の中にいた。
土方が死んで以来その状況は変わっていない。
誰も何を踊るべきか知らないのだ。
土方自身でさえそれを誰にも伝えることなく死んだ。
からだの闇から出てこれないもの。
土方が苦節の果てに掘り当てたのはその鉱脈だった。
土方が血を吐く用に踊ったのは、
出てこれないもののクオリアだった。
本当に踊るべきものはそれなのだ。
命と生命の間で必然的な深い共振が起こらざるをえない
踊りしか踊ってはならないのだ。
ヒマラヤ12年目にしてようやくそう言い切れるようになった。

今までの短期コースの時期の生徒には、
こんなことは恐ろしくて言い出せなかった。
出てこれないものには、社会の側から禍々しいレッテルが張り付けられている。
暗、汚、穢、醜、悪、劣、淫、凶、狂、病、死、・・・
それに触れるだけでも勇気がいる。
まして自分の中にあることを認めるまでには時間がかかる。
それを踊れるようになるには、もっと鍛錬がいる。
なまじそれに取り組もうとした生徒が、道半ばで共振塾を離れることになれば、
その後の責任を取れない。
何が起こるか分からない危険を秘めているからだ。
一年コースの生徒がそろう今年になってはじめて、
そのもっとも深い闇に取り組めるときが来た。
一年あれば何が起ころうと対応出来る。
もっとも深い闇から、もっとも深い美が創出する。
命が震え、胸を打ってやまない感動は、
出てこれないものが、厳しい結界を越えて、
何とかして出てこようとするときに出現する。
それに例外はない。

この冬はその出てこれないものを、
どう掘り当てていくかを探り続けた。
いくらかたしかな坑道が見つかった。
今年の生徒はしあわせだ。
まだ誰も導いたことのない恐ろしいところに本当に行ける。




2010年4月23日

老婆体

不意に突然、老婆体を踊らなければならないという気づきが降りてきた。
生徒のひとりロベルトがガイドする調体を受けている時だった。
「老婆になる」という声が聞こえたとたん、
わたしの祖母たつゑ婆さんのクオリアがいきなりからだ包んで身動きできなくなった。
わたしは3歳で母から離され、7歳までたつゑ婆さんのもとで育てられたのだった。
ロベルトもまた、原生夢ワークで、彼の94歳の祖母が山になって動くという夢を踊ったのだった。
老婆とはいっった何か。
土方がこだわった村の老婆の尻の諮詢が持つ意味が一挙に降りかかってきた。
尻で諮詢する土方の老婆は、頭でなど動かない。
老婆の仲間同士で尻で相談するだけではない。
老婆は尻で祖先や八百万の神と共振しているのだ。
今では使われていないしっぽの神経が、古い共同体や祖先の記憶と通じている。
その秘められた神経で、遠い生命記憶や生命の叡智ともつながっている。
前近代までの群れのからだ、集合的無意識のからだであるコーボディにつながっているのだ。
老婆は背後の世界と見えないしっぽでつながっている。
地中に埋められた死者の記憶、天にさまよう魂の群々、
死産していった水子の数数、
それら無数の他界と共振するのが老婆体だ。
東洋の老婆のように腰を曲げると、いやおうなく苦痛のクオリアがやってくる。
この苦痛と向き合うことこそ老婆が抱えている財産だ。
この苦痛を支払ってはじめて他界と通じるからだになることができる。
老婆体は、無数の異次元と重層的に共振するからだになるための欠かせぬ一里塚だ。
老婆は少女に変身し、獣に変わり、魔女となる。
化石となり、傀儡となり、瞬間的に気化する。
やがて、老婆体をもとに、憑依体や透明共振体への変成を学ぶことになる。
老婆体の本質は異界との重層的共振にあるからだ。