第2章 50年後のサブボディ舞踏


土方巽 疱瘡譚 1972 (大内田圭弥撮影16ミリより)

●土方が舞踏を開始してから50年経った。

人類はその多次元変容界への地図を手にした。

土方巽が暗黒舞踏(当初数年間は暗黒舞踊と呼称)を開始した1950年代からざっと50年が経った。

この50年の間に、人類は、当初土方ただ一人が発見し、単身乗り込んで舞踏を創造した多次元変容流動界への探索地図を、ずいぶんたくさん手に入れた。

なぜ、土方一人が、あのように空前絶後に奇態な舞踏を創造することができたのか?

それは、彼がからだの闇の中の異次元へいたる暗黒の坑道を掘りぬいたからに他ならない。

「私はからだの中に死んだ姉を住まわせている」と土方はよく語った。そのからだの中の死んだ姉との秘密の交接が、『病める舞姫』となって結実した。「不具者でありたい」という切実な願いを何度も語った。

それらはすべて、からだの闇の中の異次元への坑道である。毎日土方はその坑道をたどってからだの闇へ降りていった。毎日土方はその坑道をたどってからだの闇へ降りていった。姉の着物を着続け、髪を長く伸ばし、午前中半分を姉と共に動き、過ごしていた時期があるという。

そこはからだの中の死者や不具者が、外界の死者狂者疾者不具者と共振する異界であり、地霊精霊悪霊たちにいたぶられて震えのたうつ場所であった。

それは、今世紀の近代の人間にとっては異界であり、入れぬ世界となったものであるが、近代以前の人間にとっては親しい世界であった。土方の育ったころの秋田をはじめ日本の田舎にはそういう世界と行き来する坑道が無数に開いていたのだ。

それらの穴は、1960年代の高度成長経済の時代から、20世紀末にかけてことごとくふさがれていった。

その異次元との通路をなくした低次元社会が現代社会である。だが、現代社会が閉じ込められてしまったその貧しい低次元さを鋭く察知し、べつのあり方を模索する作業は、地球のあちこちで進められてきた。

それらの営みを総合し、そこで得られる地図を参考にすれば、土方以後の私たちも、彼が見つけた闇の坑道を進むことができる。

先導者がいないから未知の危険に満ちてはいる。私もずいぶんひどい目にあった。だが、なんとか掘りぬいたのだ。

私が参考にした貴重な地図を紹介しよう。

まずは意外だと思われるだろうが大きな方向を提示したのは海の向こうの哲学者たちだった。

1966年、さきにも触れたM.フーコーが、「人間の死」を告知。近代西洋の人間中心主義に立つ、人間概念は早晩消え去るだろうと予言した。その人間概念は、学校や病院、政治、法制度、刑務所などの装置を通じて人々に訓育・調教され、同時に国家秩序を自発的に支える排他的臣民意識を形成していることも解明された。

1968年、ドゥルーズ=ガタリが、これまでの近代知を支えていた3次元階層秩序的なツリー状の認識法に代わり、任意に分離、連結し、多次元を変容流動するリゾーム的な知と生存の様式を提示。『千のプラトー』は、土方舞踏が開いた多次元変容界へからだごとなりこむためのガイドブックである。

この1968年という年は、前の年、日本の学生運動が警官隊の激しいデモ規制に対し、プラカードの棍棒で対抗し始めたことをきっかけに、フランスの学生運動が道路の敷石を割って警官隊に投げつけ、アメリカ、ヨーロッパ、日本に大学のバリケード封鎖が一挙にひろがり、世界中の学生が既成秩序に対する同時反乱に立ち上がった年であった。20歳の私もその中にいた。土方の暗黒舞踏もまた、その時代を異界から煽り煽られるようかのように共に生きたのである。

同時期、自然科学の世界でも目覚しい進展があった。1968年に偶然発見されたひも理論は、宇宙は3次元でも4次元でもなく、目に見えない次元がたくさんあると提唱。1980年代の第一次ひも理論革命の中で、宇宙は振動する小さなひもでできていて、その共振パターンがあらゆる粒子の質量と力を生成するという宇宙像が確立した。これは、それまでの標準物理学の粒子的宇宙像が3次元的な知に制約されていたのに対し、多次元共振宇宙像というまったくあたらしい知の次元を切り開いた。

1969年にチューリッヒのユング研究所を修了したA.ミンデルは、1970年代から「ドリームボディ」という夢と身体症状がひとつになって出てくるプロセスに注目し、それまでのユングの三次元空間的な自己の全体性の捉え方から、時間軸を加えた4次元的プロセスの流れで人間を捉えるプロセス指向心理学を確立。さらに、それまで古代や未開のものと思われていたシャーマニズム的な多次元流動知の世界をも自在に出入りする新しい人間知の可能性を見出した。現代の人々が囚われている合意的現実という幻から解放され、多次元流動世界を生きるという新しい生へのチャレンジを提唱している。

1970年代に、高名な催眠療法家ミルトン・エリクソンの元で学んだA.L.ロッシは、1986年に『精神生物学』を著し、心身相関領域をつなぐ「情態依存的記憶・学習・行動」という生体反応に心身のくぐもりの結節点を見出した。人間の持つ創造的下意識を利用してくぐもりを解く、優れた催眠療法を発見・開拓し続けている。

日本では、中沢新一が人類学の立場から、古代以降の流動知と、現代の分別知の両方を等価に捉え、国家や宗教をのりこえ、それらを不要とする社会を構想する「対称的人類学」、流動的知性と分節的知性を合わせ持つ次代の人間の知の様式を探り、創造的な生存様式を開く「芸術人類学」の世界を切り開いた。この春、「芸術人類学研究所」を設立・発足させようとしている。私もそれにはできるかぎり協力するつもりだ。

以上がこの50年間に起こった、人類史の行方に関わるもっとも大きな知的発見である。

 

●新しいツリー=リゾーム的な創造的生を開く

ざっと言えば次の図のようになる。



左側はこれまでの三次元的空間。合意的現実意識に囚われた近代知の世界。右が、多次元流動知の世界。11次元のカラビヤウ空間を運動しているひもの共振パターン図(フランスの画家コロナ氏による)。

片方だけの世界を真実と信じて3次元的分別知=ツリー状の意識だけを生きるか、両方の世界を自在に行き来するツリー=リゾーム的な生を開くか。さあ、どちらが面白いだろうか。今の時代のあなたはどちらでも自分の意志で選ぶことができる。

土方巽から50年経って生まれたサブボディ舞踏とは、この両者の世界を透明に行き来する心身が生み出す舞踏である。

上に述べたこの50年間の心身変容流動に関する成果を取り入れ、誰もが土方のごとき舞踏を生み出し、自分のからだの闇の中と、世界中の幸と不幸を共振させる創造的な生を生きうる道を切り開いた。

その詳細は、次回以降じっくり書いていく予定だ。からだの闇の旅なので、ことばだけでは伝えにくいことも多いが容赦してほしい。

 

●学校では本当のことを教えない

現在の世界のどの学校でも、上記の20世紀後半に切り開かれた最新の成果である流動的知性や創造的生存様式を教えようとはしない。

それらの成果が現在進行中で、まだ定見になっていないという理由もあるが、実際はこれらの流動知は、現在の生産様式の主流である資本制社会と、それを守る国家秩序を覆す可能性があるからである。

なぜなら、現在の社会と国家秩序は、学校で教えられる、三次元的な古いタイプの知の様式と、排他的自我意識によって支えられているからである。排他的自我意識こそ、排他的国家を自発的に支える臣民意識であることは、かつてフーコーが克明に解明した。

学校、病院、兵舎、工場、企業、学寮、刑務所、マスコミはすべて、そういう臣民を養成する装置である。そこで、自らを覆す恐れのある新しい知や、創造的生存方法を教えることはありえない。そこは学校などではない。古臭い近代的分別知と排他的臣民意識だけを刷り込む印刷工場なのだ。

 

それは、私が学生時代、すでにウェゲナーの大陸移動説が発見されていたにもかかわらず、地学の教科書ではとんでもない偽説の地向斜説が記載され教えられていたことと似ている。大陸移動だって? そんなこと起こるわけないじゃないか。当時の教育者の意識では想像もつかなかったことなのだろう。今は?

大陸どころか、人類史が大きく転換しようとしているのだ。人間の意識の転換? 世界革命? そんなもの起こるわけないじゃないか。当時も今も教育者の精神の狭さは変わらない。

 

学校を飛び出せ。

古い知を脱げ。

国家を捨てよ。

からだごと舞踏に飛び込め。

リゾームになれ。

たったひとつの秘密となれ。

 

学校やマスコミで覆い隠されている最大の秘密、それは、現代はすでに多次元を変容流動する創造的な生を開始することが可能になっているというまぎれもない事実なのだ。

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