舞踏論   土方巽に捧げる
第2部 「静かな家」の深淵へ
 
アート舞踏譜01 西洋画家たちとの生命共振


「Xによる還元とその再生」は、
土方がその最期のソロ「静かな家のための覚え書き」で定着し、
その後も変容技法の原理として活用し抜いた根本的な変容技法である。
「静かな家」では、第1章をはじめ、第5、第7、そして第26章の要所にでてくる。
直接的な言葉が使われていない場合でも、これは変容の根本技法なので、
随所に活用されている。
はじめは誰もがとっつきにくい言葉だが、
慣れれば簡単だ。
還元するとはなにものかからある要素(X)を差っ引くことだ。
再生はその差し引いたものをもとに戻す。
Xにはどんなものでも代入できる。
例をあげよう。
健康な人から健康を差し引くと、衰弱体になる。
30歳の人から25歳差し引くと、5歳の子供になる。
通常の動きから速度を差し引くと、微速動になる。
そこから時間を差し引くと、静止になる。
三次元の物体から一次元を差し引くと、二次元の平面になる。
人間から何かを差し引くことによってあらゆる種類の衰弱体を創造することができる。
見る目を差し引くと、目腐れになる。
思考力を差し引くと呆けになる。
X還元は、衰弱体創造にとって、なくてはならないものなのだ。
土方は、西洋の画家たちの独特のデフォルメのなかにも、
それぞれユニークなX還元の方法が使われていることを見ぬいていた。

2012年の夏、日本に帰国したおり、森下隆氏が主催する「土方巽アーカイブ」で、
土方巽が作成した十数冊のスクラップブックのコピーを見ることができた。
その存在は「土方巽全集」に一部掲載されているので知っていたが、
カラーで見ることによって、
土方がどういう意図でそれらのイメージを収集したのかの全体像をつかむことができた。
もちろん、さまざまな多次元的な意図でそれらのイメージは収集されている。
ここでは、同じくアーカイブで読むことができた和栗由紀夫氏の「私家版舞踏譜」に
記述された土方の言葉から、それらアーティストに関するものを探査してみよう。

ヴォルスのインクのシミ
ヴォルス(胸元の神経の束)
ゴヤの膿の顔
シャガールの鳥
ターナーの光
ビアズレーの人物
ベーコンの顔のスローモーション化
ベルメールの少女
ベルメールの視線
ボッスの人物
ミショーの人物
ムンクの少女
ルドンの一つ目の怪人

次章以下ではまず、ベーコン、ベルメール、ミショー、ヴォルスを取り上げる。
彼らに共通しているのは、
一人ひとりが土方が「静かな家」で確立した<Xによる還元>と似た独自の方法によって、
日常的な人間像を変形(デフォルメ)し、なにか別の存在に変容していることである。

 
ベーコン
ベーコンの顔
ベーコンの表情
ベーコンの鳥
ベーコンの顔のスローモーション化
 
 
 ベルメール
ベルメールの少女
ベルメールの視線
ベルメールのけむ玉
膿のベルメール
 
 ミショー
ミショーの3つの顔
ミショーのインク壷
ミショーのガラスの人
ミショーの人物
ミショーの鶏の亡霊
 
ヴォルス
ヴォルス(胸元の神経の束)
ヴォルスのような糸
ヴォルスのインクのシミ
ヴォルスの光
ヴォルスの多面体
ヴォルスの孔雀
ヴォルスの気化
ヴォルスの神経
ヴォルスの神経が土くれる
 

ヴォルスの都市
ヴォルスの重層

すぐれた画家は、目に見える視覚情報によってではなく、クオリアで描く。
魂の目で見るといってもいい。
生命はいつも多次元時空で共振し、変容流動している。
<Xによる還元と再生>は、多次元変容流動の論理なのだ。
情報に左右されず、生命のクオリアで共振することのできるものは
一言も喋らずとも瞬時に交感できる。
土方もなんの理屈も説明もなく、彼らが自分と同じ、X還元と同じ技法を
身に着けていることを直感したのだ。
わたしもここでは、長々とした解説は省く。
人間からどんな要素を差し引けば、彼らの絵画が成立するのか、
推測してみてください。

X還元の方法など感知しなかった彼らの方法も、<X還元技法>で解けるという点に
<X還元技法>が普遍性を持っていることを示している。




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