舞踏論   土方巽に捧げる
 

第237章 舞踏譜 癇の花 


1. 灰柱を運ぶ歩行

2. 虫が右腕を這う

3. ナメクジが内腿を這い上がる

4.  まつげで埃を飼育する

5.  右頬を植物が這い上がり、こめかみから鳥が飛び立つ

6.  もやの中へ消える

7.  
ゆくえをからだの中に入れる

8.  奇妙な人が近づいてきて、皮膚や記憶をつまむ

9.  どこまでも壁に染みる

10.  きしむ空気

11.  ヒビが入る

12.   えぐられて溶ける

13.  誰かが指の間や足指の間から針金を差し込む。針金がからだの中でのたうち、歪み、絡まり合う。

14.  体の中を機関車が通過する

15.  内臓の水路を上に辿る

16. 岩の蝉の目玉

17. いままでやったことのないやり方で終わる


第236章では、土方巽が生涯に渡って収集した<癇>のクオリアをからだで読み始めた。
ここではその中から精髄といえるいくつかのクオリアを選び、序破急を鑑みて配列した。
癇の花をかせるための舞踏譜になった。
何年かこれらのクオリアをからだの闇に入れて揺すり続けてください。

わたしもこれらを消化し、動かせるようになるまで数年かかった。
じっくり時間をかけて取り組んでいると、土方巽が結晶化したこれらのクオリアが生命共振によって、あなたのからだの闇にうずくまっている忘れ去られた癇のクオリアの記憶、いのちがうまく共振できなかったクオリアをかきたて、からだのどこかの細胞が何らかの動きを思い出すかもしれない。その時を待ってください。

いのちがうまく共振できないクオリアは、からだの闇で共振し、多次元的に巻き込みあい、折れ曲がり、絡まり合っている。それらがあなたのサブボディ=コーボディとして動き出す時を待つことだ。急ぐことはない。 なぜなら、これらの、<生命がうまく共鳴することができなかったクオリア>は、私たちのサブボディ=コーボディの起源と深く関わっている。

これらのクオリア群は、土方が後の世代に残したかけがえのない贈り物だ。
いのちになるための貴重な触媒なのだ。
なお、上の舞踏譜は、下記の母集団から、任意に選びだしたものだ。あなた自身の<癇>のクオリアや、下記の母集団のクオリアと自由に交換・入れ替えすることができる。


1. うまく共振できない<癇>のクオリア群

Squeaky air きしむ空気
Being gouged and melt  えぐられて溶ける

Plants crawl the temple こめかみを植物がはう

Birds fly away from the temple こめかみから鳥が飛び立つ

Stain on the wall infinitely どこまでも壁に染みる

Crack ヒビが入る

Blurred flowers wander ぶれた花がさまよう

The itchむずがゆさ

Disappearing into the haze もやの中へ消える

Whereabouts of the body is placed into body ゆくえをからだの中に入れる

Multi-Layering of nerve mescaline メスカリンの神経の重層

Rain to diarrhea 下痢に雨が降る

A doll smolders Busubusu 人形がぶすぶすと燻る

Wire in the body 体の中の針金

Trapped in the mesh of the moment 一瞬の網の目に捕捉

Locomotive passes through the inside of the body 体の中を機関車が通過する

Consisting by margin 余白で成り立つ

Viewed by the bird's-eye 俯瞰される

Attacked by light 光に襲われる

Spider web of light 光の蜘蛛の巣

The ankle bitten by rabbit 兎に囓られる踝

The internal organs hanging out of the body 内臓が体の外にぶら下がる

Neck of the crane extending from the internal organs 内臓から鶴の首が伸びる

Follow on the waterways of the internal organs 内臓の水路を上に辿る

Peeling 剥離

Breath is sucked up 吸い取られる呼吸

Breeding of dust 埃の飼育

Transformed into the face of the grave keeper 墓守の顔に変貌

Draft that permeates the back teeth 奥歯に染みる隙間風

Open pelvic tail grows しっぽが生えて開く骨盤

Old woman being kissed 接吻されている老婆

Surrounding exactly what ambiguous 曖昧なものを正確に包囲

Touch of a fingertip to trace the grain木目をたどる指先の感触 

Being confined to the crystal 水晶に閉じ込められる

Passing of the myriad gazes  無数の視線の通過

Gaze to split the space 空間を裂く視線

Wander the inside of the ear 耳の内部をさまよう

Burnt feathers 焦げる羽

Locked in a small room in the chest 胸の小部屋に鍵がかかる

Pulling pus loose 膿をずるずると引っ張る

A fool being chased 追いかけられる馬鹿

Girl approaching from a distant forest 遠くの森から少女が近づく

Rising up with the darkness gradually 闇を携えせり上がる

Leaves fall in the cranium one by one 頭蓋の中に木の葉がはらはらと落ちる

2.心身の一部が<癇>に凝り固まる

Rock cicada’s eye 岩の蝉の目玉

Retracted scab 引きつったかさぶた

Man of pock あばたの男

Strange person who pinches つまむ奇妙な人

Firm with remaining blurred ぶれたまま固まる

Child drooling よだれを垂らす子供

Internal organ dried up completely カサカサに乾く内臓 

Person with a Gibbs ギブスをはめた人

Goya face of pus ゴヤの膿の顔

Face of the pomegranate teeth ざくろ歯の顔

Face of the dried flower ドライフラワーの顔

Face being put painted inside 内部に塗り込められる顔 

Face blurred forward 前方にぶれてゆく顔

Right eye and the left half of the face is melting 右目と左半分が溶けている顔

Dark sooty face 暗い煤けた顔

Face of the forest 森の顔

Origin of nail and teeth 爪と歯の起源

Small shrine of the eyes and mouth cavity 目と口の中のほこら

Absolute face that is not able to save appears 真に救われない顔が出る

Raisin eyes of an old woman 老婆の干しぶどうの目

Man dividing meat 肉の区分けをする男 

3.存在そのものが<癇>になる


Framan bedridden for 25 years 25年間寝たきりのフラマン

Torn God 魂が引き裂かれた神様

Sick Dancing Princess 病める舞姫

少年時代、土方巽は奥の部屋で寝たきりの老人にあったとき、不思議とこれらの人に混入同化してしまうような体験をした。純粋な生命共振が起こったのだ。

共振は共振によって、それまで別々だったものをひとつにする力を持っている。

その不思議が土方巽に『病める舞姫』を書かせた。

読者のかたも、生涯ではじめて障害を持った人に出会ったときのいのちの共振を思い出してほしい。似たような混融が起こらなかっただろうか。自我ができる以前のことなので思い出せないかもしれない。

だが、舞踏とはこの生命共振の不思議を踊りで創造しようとするものだ。

絶えず、からだの闇の底の思い出せないクオリアに耳を傾け続けてほしい。

いつか、忘れ去ったクオリアが訪れるかもしれない。


Stunted young grave keeper  いじけた若い墓守

Hunchback せむし

Sloppy girl だらしない少女

Looming horse ぼおっとした馬

Auschwitz アウシュビッツ

Ghost playing the organ オルガンを弾く幽霊

Girl of cataract  ソコヒの少女

Stuffed Framan フラマンの剥製

Ghost of Michaux's chicken ミショーの鶏の幽霊

Ghost of Michaux's chicken.jpg

Collapse of the beggar 乞食の崩壊

Smoldering doll 'Busubusu' 人形がぶすぶすと燻る

Face of a bear on the back of the mask 仮面の裏の熊の顔

Pigeon-toed gecko 内股のヤモリ

Stuffed spider's web  剥製化した蜘蛛の巣

Generation and dismantling of doll by soil 土塊の人形の生成と解体

People who are made ??of dust 埃でできている人

Who have been put paint on the wall 壁に塗り込められた人

A ghost with having by its mouth a child's face  子供の顔をくわえた幽霊

Cow of density  密度の牛

A dangerous person who is likely to collapse  崩れてしまいそうな危うい人

Pope who has the steam of pus  湯気の膿の衣を引っさげた法王

A dark bottle trying to stand desperately  暗い瓶が危うく立つ

Auschwitz overlaps insects dancing on paper  紙の上で踊る虫にアウシュビッツが重層する

A girl wrapped in the dark behind  背後の闇に包まれている少女


これらが、生命の舞踏を踊るサブボディ=コーボディをからだの闇から呼び出す触媒になる、とびきりの苦い水だ。

何年も時間をかけて、これらの<いのちがうまく共振できないクオリア>をいかに踊るか、工夫と発明を重ねてください。

やがてあなたのからだから、固有の<癇>のクオリアが渾渾と湧き出してくる日まで。

世界中のひとが、思い思いの場所で、いのちがうまく共振できないクオリアを踊りだす日まで。



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