舞踏論   土方巽に捧げる

第224章 元型

からだの闇に棲む元型をいかに踊るか

共振塾ヒマラヤでは、人間の祖先の歴史を追体験するサブボディ=コーボディ探体を行う。
ここ十数年、この人類の祖先の体験をからだで辿り直す探求を続けているうちに、からだの闇に棲む<元型>がどのようにして形成されてきたのか、少しずつからだの腑に落ちてきた。
人類の祖先は700万年前チンパンジーから種を分かち、アフリカ大陸で長い石器時代の歳月をかけて、原生人類にまで進化してきた。
およそ20万年前、アフリカの気候が変化し、人類の先祖は食糧危機に見舞われ、アフリカから脱出しなければ生き延びることができないほどの危機に直面した。
「出アフリカ」の長い旅が始まったのだ。
「出アフリカ」の移住は数次にわたってあったと見られ、祖先たちは、アフリカから、アジア、ヨーロッパ、オセアニア、アメリカなど他の大陸にいたる長い艱難に満ちた旅を体験した。
それは凶暴な肉食獣、多くの災害、洪水、地震、火山、津波、戦乱などに満ちたものだったに違いない。
これらの苦難の経験が、元型として、C.G.ユングによって集団無意識と呼ばれたからだの闇の深部に刻印されることになったのだろう。
とくに、地獄、太母、悪魔、幽霊、キメラなどの元型は、民族の違いを超えてすべての人類のからだの闇に刷り込まれている。222章の「狂王」や「ヘリオガバルス」も元型の一つだ。
いや、「自我」こそ、現代における最強の元型だ。アニマやアニムスと並んで、もっとも厄介な元型の一つだ。

からだの闇の深部の探体を行うと、多数多様な元型に出会うことがしばしば起こる。
元型はときにはわたしの共創をより豊かに、ダイナミックに彩ってくれる。
しかし一方で、元型はとびきり強い支配力をもつ。
もし元型のひとつに囚われてしまえば、
たちまちわたしたちは創造の自由と柔軟性を失ってしまう。
そういう人に数え切れないほど出会ってきた。
おそらく、ユングもそうだったのだろう。
かれは次のような異例の強い言葉で元型にとり憑かれる危険を警告している。

「元型に取り憑かれてしまった人は、例外なく悪魔に陥ってしまう。」

では、どうすればその危険を避けることができるのだろうか?
土方巽の「静かな家」に書かれている<自在跳梁(Jumping Wild)>がその鍵を握っている。
ひとつの元型に縛られるのではなく、ひとつのボディ・イメージから、別のイメージへ、自在に飛び移り、変容していくことによってのみ、その危険から身を守ることができる。
1968年の「肉体の叛乱」において、自分の中の「自我」=「ヘリオガバルス」を爆発的に踊った土方は、元型の恐ろしさを嫌というほど身にし見て味わった。
だからこそ、それを命がけで削ぎ落とすために衰弱体を発明せねばならなかったのだ。
「静かな家」の冒頭に彼は記している。

「死者は静かにしかし限りなくその姿を変えるのだ。
彼等は地上のものの形をほんのふとした何気なさで借用することも珍しくない。」


自我を脱ぎ、無限の変容を自在跳梁する「死者」になりこむことで、かろうじてわたしたちは
「元型の危険」から身を守ることができる。なにものにもとらわれない透明なからだになるまで踊り続けるしかないのだ。



←BACK(第23章) ■ NEXT→