舞踏論   土方巽に捧げる

第219章 ため

12 崩れる

  叫びと少女―くずれてゆく前のふるえ

「ため」は、舞踏のみならず、日本の芸能における伝統的な共振技法だ
土方はそれをただ一行で表している。
観客が舞踏者の崩れる必然性に共振するまえに崩れれば、
それはただ、「ああ、倒れた」と受け取られるだけだ。
だが、崩れる前にからだの闇の声にならない叫びがふるえとともに
じょじょに強くなっていく微細な時間を観客と共有することができれば、
観客は踊り手の<崩れる必然性>に共振し、
崩れた瞬間に境界が消えて観客と舞踏手がひとつになる。

崩れるまえに体内の悲しみがせりあがり、口から溢れんばかりになった瞬間に崩れよ。

このひとつの命に混融される生命共振の軌跡をもたらすのが<ため>という技法だ。

短い節だが、もっとも重要な生命共振技法がここに凝結し結晶している。













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