舞踏論  第2部 (第200章から始めます) (
 
「静かな家」の深淵


静かな家」の舞踏譜の参考写真集を上に作成しました。

読むだけではなかなか分かりにくい土方巽の舞踏イメージを
写真でつかんでください。


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第200章 「「静かな家」ソロ 覚書き」 全文



土方巽は、最後のソロ「静かな家」(1973年)のための
250行に及ぶ詳細な舞踏譜を残している(全集第2巻)。
ここには、彼が1968年の「肉体の反乱」以降、
それまでの挑みかかるような舞踏スタイルを脱ぎ捨て、
人間という現代世界を覆う最大の元型の囚われから脱するために
必然的に到達した衰弱体技法のエッセンスが秘められている。
彼が希求した「生命の呼称で呼ばれる舞踏」へ至るための遺言書でさえある。

これが収録されている土方巽全集は1998年に発行されている。
その年から私は世界行脚の旅に出た。
1万冊以上あった蔵書から、たった5冊の書物だけを残して
家も家財道具も万冊の書物も300本以上のダンスビデオの収集もすべて処分して旅に出た。
残した5冊のうちの一冊がこの土方巽全集だった。
土方の舞踏譜は、独特の難解な暗喩と隠語に満ちているので、
はじめは何を書いているのか、見当もつかなかった。
だが、ヒマラヤで10年以上この深い闇に向き合っているうちに
だんだん自分のからだの闇からつかんだものが、
この舞踏譜の世界につながっていることが掴め始めた。
全部ではない。まだまだ未解明の部分は数多く残っている。
だがある日、頭ではなくからだで透明に共振できるようになって来た。
土方の生命探求の遺産を世界に紹介したいと翻訳にもとりかかった。
難航していたがじょじょに英語に翻訳するこつがつかめてきた。
ここに来るまでにかっきり12年かかったことになる。
だが、時間をかけて掘り抜いた甲斐はあった。
これは生命の創造性が無尽蔵に詰め込まれた宝庫である。
共振塾ではいましばらくはこの宝庫を生徒と共にからだで読み解いていく予定である。
この章では、覚書の全文に、整理のための小見出しを付加した文章を掲載する。
各部分の解説は、それぞれの節のリンクを参照されたい。


「静かな家」ソロ 覚書き

 

 

1 「赤い神様」

 

雨の中で悪事を計画する少女

床の顔に終始する

さけの顔に変質的にこだわる

○はくせいにされた春

○森の巣だ 目の巣だ、板の上に置かれた蛾

○気化した飴職人または武者絵のキリスト

○額をはしる細いくもの糸

○乞喰

○猫の腰

○背後の世界

○ごみ処理場

○鏡をこするとゆれる花影があった

○納屋の中でもろい物音がくずれた

○カンコウ場

○Xによるかんげんを再生

○鏡のウラ

 
解説→第17章18章

2 重要

 

「死者は静かにしかし限りなくその姿を変えるのだ

彼等は地上のものの形をほんのふとした何気なさ備用(ママ)することも珍しくない。」
(ほんのふとした何気なさで借用することも珍しくない。と土方は書いたはずだ。
少し崩せば、借と備の区別はつかなくなる。
編集者は心眼で読まねばならない時もあるのだ。)

 

3 「灰娘」

 

魂と精霊

ゆくえ

もうだれも訪れない

もう誰も眠れない

○かんの花

○過度の充実が来て彼女はとほうもない美しい者になった

○死者達のさまざまな習慣を覚えた

○馬肉の夢

○座しきから引き出されてきた男

○イスに座って狂った大人子供=ケダモノ

○裸でカンチェンの出だしを踊る

○フラマンの寝技をつかう

○嵐が来た朝

○物質化

 

4 (気化)

 

一番―花、雨、少女、全部使う

   仮面、あるいは虫

   人形―灰娘―洗たく―もう誰も訪れない

二番―走って鳥から少女、少女気化して座り技

三番―魔女A気化する

四番―赤いシャケの頭にかかわる魔女気化している

五番―馬肉の夢を見る大魔女気化している

六番―さまざまなゆくえが気化している

   水、お盆―遠い森ー死者

 
解説→第24章

5 精神のかげりとして捉えられたもの

  

   きわめて緩慢な少女

   のびきったキリスト

   のびきったままおろされたキリスト

カンチュイン

狂王の手―虫、鳥、棒

坐せるカトンボ

これらはワルツによってほとんど踊られる

そうして、Xによる還元と再生はあの遠い森や、目の巣から飛び立っている、

尚、死者は、これらのものにことごとく関与している

これらを舞踏するために、登場する何者かは、鳥のおびえ、虫のおびえに、

通じていなければならない。

尚、少女は馬の顔になり、そこで停止する。

また、いま一人の少女は立ちあがり、トンボをへて人形に至る。

そこで全てのゆれは停止する。

 

6 (カン工場)

 

鏡の表と裏にひそむ「カン工場」

 

7 (馬肉の夢)

 

私は素っ裸で寝ている、そうして馬肉の夢をみた

  ゆくえは何処へ行ったのか?

  狂王は箱におさめられる

  箱のゆくえは細かい解体につながっている

  髪毛の踊りる

  船

  Xによる還元と再生

 

  目の巣について

羅漢

トンボ

虫のワルツを踊る髭、すなわちワルツの髭

グニャ、グニャの猫

ゆくえのグニャグニャ

  これら全ては船の部分を構成している

 

  鼻毛ののび太鳥と箱になった鳥

  これらもまた船が化けたものである。

  あるいは解体された船としてもながめられよう

  私は遠い葉っぱや身近なナッパをみて飛ぶ

  これらがカン工場で嗅いだものである

 

8 (嵐が去った朝)

 

嵐が過ぎ去った朝、もう誰も私を訪れない←私は立った

武将がそのまま巣になっている

 

9 (鏡の裏)

 

鏡の裏―光の壁

 密度を運ぶ自在さの中には、めまいや震えや花影のゆれがひそんでいる。

 

10 (メスカリン)

 

 手の恋愛と頭蓋のなかの模写は断絶してつながっている。

指さきの尖たんにメスカリン注射がうたれる。

そこには小さな花や小さな顔が生まれる。

 細い細い糸のあみ物、無窮道のあみの目、

炎を吐く鳥とこっけいな熊が、ゆらゆらと狂王に従う。

そのさなかに頭部がいまひとつのゆくえを追っているのだ。

 全てのマチエールは背後によってささえられている。

複眼と重層化は混濁し一体のものとなる

 

11 (キメラ)

 

ベルメール―こっけいな熊へ―馬の顔へ

鹿の視線から―棒へ―乞喰へ―虎

鼻毛の鳥―花―狂王へ―複眼―ゆくえ

虫―犬へ―オランウータン―福助の耳へ

耳がつつかれる―目まい―鏡の表裏へ

複眼のなかでいき絶えているもの

 人形―仮面―パパイヤ―ほたる―板の展開

 小さな花等がある

馬の顔―少女の顔―犬―スプーン

虫と木の合体―背後へ―ふいに植物の軌跡で展開をはかるものへ

 

 

12 崩れる

 

  叫びと少女―くずれてゆく前のふるえ

 

13 ふるえ

 

    その形態は独立している。

 

14 メスカリン手

 

 この手が持つ問題は次第にはっきりするだろう。

 

15 ゆるやかな拡散

 

    いっ気に気化状態へもってゆかぬよう心掛けるべし。

    気化状態のなかでこそ展開がこころみられるべきだ。

    この問題もやがてはっきりするだろう。

 

16 場所を変えることの難しさ

 

    体こそ踊り場であろう。手の踊り場、尻の踊り場、肘の裏の踊り場等。

    この場所が持つ深淵は、この踊り場にはさまってくるものを克服し、

    からみつかせる事により成立する。

    例えば、柳田家があり、柳田家の庭にクジャクがいるという事をたいへんに

    貴重なものであるという発見をする。

    また、カン工場という場所は、私にとってなつかしい粉末というものによって

    語られる。

    それらが踊る際の血液になっているのだ。

 

17 (羅漢)

 

   手ぼけの羅漢に虫がつく―小さな花―糸―貝―はかり

 

18 (視線)

 

   頭のなかと眼のなかを熟視する―その熟視の状態を熟視する―外側からそれを

   眺めれば停止したようにもみえよう―視線へ―細い細い棒へ

 

19 (関節の小箱)

 

   関節の小箱―ハンス・ベルメール―武将―王女―虎

 

20 (全体の花)

 

   全体の花と皮膚への参加は均質なものである。

   たれさげられた手の状態で全てが行為された場合の悪夢は裸体特有のものである。

 

21 (はもん)

 

   背後からも内部からも襲われて、路上の花を摘む

   ふるえて、床にも、空にも、そのはもんは、拡がってゆく。

 

22 (ヘリオガバルス

 

   深淵図には複眼よりもむしろ皮膚への参加に注目されねばならない。

   ただ一回のヘルオガバルスがある、

   耐えるもの―それはめくるめく節度の別の顔であった

 

23 複眼

 

 1、花の視線と花びらでつつまれた顔 

 2、眼球のなかの小さな花 

 3、まつ毛でほこりを飼育する

 4、剥製体として繁みのなかにいる少女

 5、繁みとクモの巣のなかの少女と狂王

 6、目のなかの繁みのなかの少女と狂王

 こういう部分に関る体で嵐の襲来を待ち受けている、

 まるで嵐がくる事を予感した子犬や、スプーンやホタルのように。

 そうして、それらに関る視線を舞踏家は持たねばならない。

 この視線こそ、桃色インコの目玉である。

 

24 (ふるえ)

 

鏡をこするとゆれる花影があった

 1、耐え忍ぶ剥製のとほうもないきたならしさ

 2、牛と木のワルツがふるえている

 3、鏡をこすると背後からゆれる花影があった

 4、ふるえている

 5、路上の花摘―歩く盲―犬

 6、スプーン―老婆 

 7、ふるえている

 8、方眼紙の網目に小さな花や小さな顔がかかっている

 9、ふるえている

 10、床にも空にも

 

25 (悪夢)

 

悪夢こそはこの裸体なのだ

 1、虫やらミショーの顔やら、少女と馬の顔やら、

  電髪の女やら、馬鹿の顔やら、ボッシュが描いた人物の顔やら、

  助けてくれと嘆願する手やら

 2、犬と花と影とトントントンと跳ねる虫

 

26 奇妙な展開のさなかで

 

 1、手のなかへの求心的な恋愛を頭蓋のなかにすっかり置き変える

 2、神経が棒になり、棒が乞喰になった。乞喰が旗を振っていた、

  それは大きな鳥であった。

 3、首が馬の首になってのびると、指のゴムものびた。

  その作業のさなかに、点の眼と視点が変えられた。

  Xによる還元と再生にさらされていたのだ。

  その時は、背後に爪がザックリとささり、ゆくえははぐれて育ち、

  新たな還元により、小さなマイムがそこに誕生していた。

 4、内部が外部へあふれ出し、あふれ出していったものが仮面の港へ

  帰ってくる。仮面は森のなかへ船出をするのだ。

 5、額の風、額はとらわれている。手の葉、植物の軌跡を走り、私は、

  ついに棒杭の人となっていた。

 6、深淵図の中で、全ての事象の午前一時のなかで、柳田家の孔雀は完成される。

 

27 皮膚への参加

 

 1、小さな頭蓋のなかの小さな花、それはそれは細い細い視線、

  神経は、頭の外側に棒を目撃した、

  その棒を額で撰り分けている視線。

 2、小さな顔で歩く盲はまるでサルのようだ。猿の頭に落雷。  

  頭の中に小さな花が咲く、糸つむぎの唄が聞え出す。

 3、引きのばされる老婆は一枚の紙になるだろう。

  老婆はその紙の上に蛾のように乗っかるだろう。

 4、武将は女王になり、女王は関節の箱におさめられるだろう。

  その箱のなかからの生まれ変わりがフーピーという踊り子である。

 

 

 (*各節の番号とカッコに入れた小見出し、および脚注は、

   理解の便宜上Leeが付加したものである。)



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