| <序破急> |
踊りをいかに始めるか、 始まりにおいてもっとも大事なこととは何々なのか。 それが<序>をめぐる問題だ。 1.<序>の<序>――兆しを秘めよ からだの闇で何らかのクオリアと出会う。 これが踊りの始まりになる。 まだ動きにはならない。 動き以前に命はクオリアと出会っている。 だが、それは本人しか知らない秘密だ。 兆しを秘めること、秘兆。 これが<序>の<序>のこころだ。 その秘められた兆しの中には、 この踊りの一切の花も謎も予感のように折りたたまれている。 だが、それは踊る本人にさえ長い間分からないことだ。 動きの前に踊り手はいかなるクオリアと これから格闘することになるのか、 十分に準備ができていなければならない。 観客にはまだ何も見せない。 静まり返ったからだのなかで 命とクオリアの共振だけが静かに始まっていく。 従来の舞踏のことばでは<タメ>をつくるという ことばでこの<序>の<序>の呼吸が伝えられてきた。 2.<序>の<破>――秘兆ゆらぎ 秘められたクオリアとの出会いが、 かすかなゆらぎとなって現れ出す。 これが<序>の<破>だ。 何かしら、かそけきものが始まっている。 だが、何が始まっているのか誰にも分からない。 始まりつつあることだけを伝える。 これが秘兆ゆらぎだ。 クオリアはいつもゆらいでいる。 であったクオリアが重いクオリアなら軽さとの間でゆらぐ。 温かいクオリアなら、寒さとの間で。 生と死の間で。 開けと閉じとの間で。 命と石の間で。 明るさと闇との間で。 一色のクオリアだけではない。 からだのあちこちが違った次元にゆらぐ。 そうだ。さまざまなクオリアがゆらぎ立つ。 こうなれば、自全ゆらぎの始まりとなる。 観客のほとんど全員が、始まりつつある何かに捕らえられている。 だが、何が始まろうとしているのか、謎はいっそう深まっていく。 これが<序>の<破>の命である。 ここで観客のまなざしを掴んで終わるまで離さない。 踊りという命の共振現象がここから始まっていく。 3.<序>の<急>――異次元開畳 やがて、ゆらぎが拡大し、誰の目にも何が起こっているのかが はっきり見え出す。 踊り手は一つの異次元を開畳し、その世界の住人に変容する。 これが<序>の<急>である。 この開畳する異次元の中にいかに観客をともに引き入れるか、 これが<序>の<序>から、<序>の<急>にいたる課題である。 すべての<序>のテクニックはそのためにある。 4.<破>――異次元開畳につぐ開畳 この<序>のテクニックをつかみさえすれば、 後はどんな世界でも開畳していける。 通常<破>は、3段から5段を設ける。 <破>1、<破>2、<破>3と畳み掛けていく。 すべての<破>は、違った仕方で開畳されなければならない。 緩急、高低、時間、空間、チャンネル転換…… 予想外の次元が予想外の仕方で開畳される。 工夫のしどころだ。 踊り手は、サブボディを乗り換え乗り換えして、 自全の全領域を旅していく。 現世に生きていたはずの観客を、すべての異次元にいざなっていく。 そして、いつしか知らないうちに、 観客もまた踊り手の棲む異界の住人とされてしまうのだ。 5.<急>――揉み寄せ、発明 さまざまな<急>がありうる。 <急>は最大の発明のしどころである。 順手ならば、さまざまな動きを短時間のうちに次々と見せ、 手数を増やして揉み寄せ、緊張を極限まで高めていく。 それが揉み寄せの<急>だ。 そののちに、その踊りの中で最も踊りたかった踊りにいたる。 それが最後の<急>だ。 命に聴けばいい。 「この踊りを何千万回繰り返せるかい?」 命が「然り!」と答えれば、 それは紛れもない君のサブボディにとっての<急>である。 激しいクライマックスに至る<急>もあれば、 静寂の極致に至るアンチ・クライマックスの<急>もある。 華やかな花を見せる<急>もあれば 真っ暗な謎の中に沈んでいく<急>もある。 いや踊りにはこのどちらもが必要だ。 その踊りの花と謎を最果てまで開け果てる。 それができたら<急>を踊ったことになる。 世界でまだ誰も見せたことのない<急>を発明すること。 それが<急>の課題である。 そこで、踊り手は異界の住人として、 この世に異界からのまなざしを差し向ける。 その異界が死者の世界ならばそれは他界からのまなざしとなる。 この現世はクオリアの輝きに満ちている。 命はそれらとまばゆいばかりに共振している。 だが、死の世界は、どんなクオリアとも共振することはない。 共振なき世界から、共振世界を見つめる。 そのまなざしは現世に生きている観客に、 そこで生きろ!と告げる。 そここそが君の生きる場所だ。 見てみろ輝かしいクオリアに満ちているではないか。 豊かな共振にあふれているではないか。 自分の日常世界の豊かさを忘れて退屈し、 踊りなどを見に来ている観客に、 創造主として生きろと告げる。 それがサブボディからサブボディへのメッセージだ。 |
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